Dear my dearest






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「とりあえず、ニコルの誤解も解けたことだし、クレオール公爵家に使いを出した方がいいだろう。今頃公爵は血相を

変えてあちらこちらを探し回っているだろうから」

「え、ええ。そうですわね。では早速使いの者を……」

 ジェンナはエリヤの指示通り、公爵家に使いの者を送る手はずを整えた。

 そして一段落と、すでに冷め切ってしまっているお茶を新しいものに取り替えるように侍女に指示して長椅子に座り込んだ。

「殿下。失礼いたしますわね。今の私には長時間立っているのは辛くて……」

 言いながら少し目立っている自分のお腹を手の平で撫でた。

 その優しい仕草にエリヤが柔らかな微笑を浮かべる。

「もちろん。私のことは気にせず好きにされるといい。 伯爵夫人。 その体に無理は禁物だ」

「ありがとうございます」

 にっこりと微笑み、ジェンナはテーブルに用意されたお茶に口をつけた。

 一口飲み、ふうっと息をつく。

 落ち着くと、また改めて怒りがふつふつと再燃してきた。

「それにしても、あのマイラのことはどうしたらいいものかしら。このまま放っておくのはとんでもないことだし。何かうんと

懲らしめるようなことを……」

「チェスター伯爵夫人」

 ぶつぶつと呟くジェンナに、エリヤが静かな声でその名を口にした。

「チェスター伯爵夫人。友人思いの貴方の怒りはわかる。しかしこれはクレオール侯爵家の問題だ。公爵に報告するのは

いいが、それ以上のことは彼に任せなさい。貴方も先ほど呟いていたように公爵家の名誉がかかっている。公になることは

避けなければならない問題なのだから」

「もちろんですわ。殿下。申し訳ありません。浅はかな物言いでした」

 エリヤの諭すような言葉に、ジェンナは怒りに冷静を欠いていた自分に気づき、頬を赤らめた。

 いつもの自分らしくない。 普段ならばそれくらいのことは常識として弁えている。 自分が手を出すような類の問題では

ないということもわかっているはずなのに。

 それだけ自分が冷静さを失っていたということだ。

 そうだ。これはデュークの、クレオール侯爵家の問題。自分が口出すべきことではない。

 自分にできることはここまで。あとは彼に任せるべき。

 そう思いながら、ジェンナは先ほどから窓辺に立ったままのニコルに目を向けた。 

 ニコルを見たジェンナは、ふと眉を顰めた。

 先ほどからニコルがじっと立ったまま一言も口を利いていないことに気づいたのだ。

「ニコルちゃん? どうしたの?」

 座りなさいな、と自分の隣をぽんぽんと叩く。

 しかしニコルはじっと立ったまま、動こうとしなかった。

「ニコルちゃん?」

 ニコルの様子がおかしい。先ほどまではデュークの元に帰れると知って喜びに顔を輝かせていたというのに、今は

何故か不安と恐れの色を浮かべている。

 一体どうしたというのか。 原因がわからずジェンナは首を傾げながら問いかけた。

「ニコルちゃん? どうしたの?」

「……ジェンナさん……」

 尋ねるジェンナを、ニコルは迷い子が助けを求めて縋るような目つきで見た。 そして何度か逡巡を繰り返した後、

ゆっくりと口を開いた。



「………僕……本当にデューク様の所に帰ってもいいの…? やっぱり僕、デューク様の側にいない方がいいのかも」



「何を言っているのっ ニコルちゃん」

 思いがけない言葉に、ジェンナは驚いた声を上げた。 

「そんなこと、決まっているじゃないの」

 何故ニコルがそのようなことを言い出したのかわからなかった。 さっきまではあんなに喜びを露わにしていたというのに。

 一体ニコルの中で何が起こったというのか。

「ニコルちゃんはデュークの奥様でしょう? どうしてデュークの側にいない方がいいなんて言うの。 デュークの側にいたいって

あんなに言っていたじゃない。それともやっぱり離れたくなったの? 側にいたくないって?」

「そんなことありませんっ!」

 ジェンナの言葉を、ニコルはぶんぶんと激しく首を横に振りながら否定した。

「デューク様の側にいたいですっ ずっとずっと。 僕、デューク様が大好きですっ 奥様でいたいです。 ……でも………」

 ニコルが顔色を曇らせて俯く。

「でも?」

 ジェンナが先を促す。

 ニコルは俯いたまま、小さく呟いた。



「………………僕、 デューク様の奥様の資格、ないです………」