Dear my dearest
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「ちょっと待って……嘘…………その話本当に嘘、かしら……」 何かを思案するように呟く。 「ジェンナさん…?」 その姿にニコルがまた不安そうな表情になる。 しかしジェンナは頭に浮かんだ考えを先にまとめてしまおうと、そんなニコルをあえて無視した。 自分の考えが間違っていないなら、大変なことだ。 なにしろ公爵家の名誉がかかっている。 「もしかしたら……あの人、本当に子供を……? だから慌ててデュークに……?」 「え?」 ジェンナの呟きにニコルが目を見開いた。 「やっぱり、赤ちゃんがいるの……? デューク様の…?」 みるみるその顔が青ざめる。 「ち、違うわよ。 ニコルちゃん。違うの。デュークの子供って意味じゃなくて……」 「マイラ殿が別の男性の子供を身ごもっていると? クレオール公爵ではなく、ましてや自分の夫でもない別の男性の?」 ジェンナが思い至った考えを口にしたのは、側で同じく何事か考えにふけっているようだったエリヤだった。 エリヤもまたジェンナと同じくマイラの行動に不審を抱いたのだ。 話が急すぎる。デュークと付き合っているというのならともかく、子供ができたなど。 そんなすぐにでもわかる嘘を 何故つくのか。 そう考えた時、思い至ったのは一つ。彼女がすでに身ごもっているのではということだ。 それならば話はわかる。焦った彼女は夫に知られる前に一番自分に利益となるように話を進めようとしたのだろう。 エリヤは自分に目を向けたジェンナに同意するように頷いた。 「おそらく、伯爵夫人の考えは正しいだろうな。マイラ殿は……」 「なんて人なのっ!」 エリヤの同意にジェンナは憤った声を上げた。 己の遊びの不始末をこんな形で片付けようとするなんて。しかもなんの罪もないニコルまで騙し、傷つけて放り出そうと するなんて……っ 「許せないわ。 なんて汚い真似をするのかしら。 まったく。 前から嫌な人とは思っていたけれどまさかこんなことまで するなんて……っ」 「ジェンナさん………あの……?」 怒りに震えるジェンナに、ニコルが恐る恐る声をかけた。 その顔は困惑と不安に満ちていた。 ニコルには二人の会話が見えていなかった。 どうしてジェンナはこんなに怒っているのだろう。 エリヤ王子も先ほどまでの優しい笑みが消え、眉を顰め不快感を隠し 切れないようだ。 どうしてだろう。 一体何の話をしているのか。 マイラのお腹に子供がいるとジェンナは言った。でもそれはデュークの子供ではないとも。 ニコルには少しも理解できない。 デュークの子供ではないなら一体誰の子供なのだろう。 もしかしたら……。 「あの……やっぱりマイラさん、勘違いしているんですか? お腹にいるのはデューク様のお父様の子供なんですか? だったら……」 何も問題はないはずだ。だって、自分の旦那様の子供なんだから。 そう思い至ったニコルはぱっと表情を明るくした。 だからジェンナは何も心配いらないと言ったのだ。 ニコルは変わらずデュークの奥様のままなのだとも。 僕、やっぱりデューク様の奥様でいられるんだ。 そう思ったニコルは嬉しさに頬を紅潮させた。 「ニコルちゃん……」 しかしジェンナはそんなニコルに一瞬呆れた目を向け、そしてすぐに表情を和らげた。 側により、その腕の中に抱きしめる。 「ジェ、ジェンナさん…っ」 「ああん、もうっ なんて可愛いのかしらっ!」 ぎゅうっと抱きしめ、その頭を何度も撫でる。 マイラの勘違いだなんて、そんなことあるはずがないのに。 自分を傷つけたマイラさえ悪人に思い切れないニコルの純粋さに愛しさが募る。 可愛くて仕方がなかった。 「もうっ 本当にこのままうちの子供になっちゃいなさい。私がうんと可愛がってあげるから」 「ジェンナさん……っ くるし…っ」 腕の中に抱き込まれ、その豊かな胸に顔を押し付ける形になったニコルは、息苦しさにジタバタと手を振り回した。 「何でも好きなもの買ってあげるわよ。 ニコルちゃんによく似合うお洋服も甘いお菓子もたくさん。 毎日一緒に買い物に行って お芝居を見て、美味しい物を食べて、いろんな楽しいことを教えてあげるわよ」 何とか胸の中から抜け出そうとするニコルにかまわず、ジェンナはなおもぎゅうぎゅうと抱きしめた。 ニコルはもう息が苦しくてこのまま倒れてしまうかと思った。 そんな状態の彼を救ったのは、側にいたエリヤだった。 「伯爵夫人。もうそのくらいに。ニコルが苦しがっている」 くすくすと笑いながら、助け舟を出す。 「あら……」 エリヤに言われ、ジェンナはやっとニコルが自分の腕の中でジタバタともがいていることに気づいた。 ジェンナの腕から抜け出すことができたニコルは、頭をくしゃくしゃにしたまま、ほうっと安堵のため息をついたのだった。 |