Dear my dearest






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「……迷惑? 出てきたって……あなた、ニコルちゃん……」

 どうしてそんなことになったのか、わからずジェンナはまじまじとニコルを見た。

 目の前の少年はそれだけが縋るものとばかりに子犬をしっかりと抱きしめ、自分こそが

捨てられた子犬のように途方にくれた目でこちらを見ている。

「一体何が何だか私には………とにかくニコルちゃん、詳しい話を聞かせてくれないかしら」

 ため息をつきながら首を振る。

 デュークのところを出てきたということは、ニコルは今一人だということだ。

 どうりでいくら探してもデュークがそばにいないはずだ。

 今頃屋敷で血相変えてるんじゃないかしら。

 先日会ったときに、デュークの少年に対する溺愛ぶりはしっかりとこの目で見ている。

 彼がニコルを手放すなど……ましてや迷惑に思っているなど信じられない。

 何かの間違いだろうとは思うが、とりあえずニコルの話を聞くことにする。

「でも……」

 ジェンナの言葉に、しかしニコルはまだその場を動こうとはしなかった。

 明らかにデュークのところに戻されるのではないかと警戒している。

「デュークのところに戻るのはだめなのね。わかったわ、私のところへいらっしゃいな」

「ジェンナさんのところ?」

「そう、私のところ。ニコルちゃんを私の屋敷に招待するわ。それならいいでしょう?」

 言い、自分でもいい考えだとにっこりした。

 あのデュークを骨抜きにした子、という点を除いても、ニコルのことはあの芝居の夜に会った時

にとても気に入っていたのだ。

 こんなに素直で可愛い子は滅多にいない。

 あの時自分の屋敷に招待した言葉は決して社交辞令などではなかった。

 もともとジェンナは自分の気に入らない人間は声をかけることすらしない、はっきりとした

性格の持ち主だ。 ましてや自分の屋敷に招くなど、よほど気に入った者でないとその気に

ならない。

 その彼女が、ニコルに対しては初めから好意を露わにしていた。

「うふふv 一度ニコルちゃんとはゆっくりとお話したかったのよ」

「ジェンナさん……?」

 子犬を抱きしめたまま首を傾げて自分を見るニコルに、ジェンナはまた相好を崩した。

 もう、なんて可愛いのだろう。

 その無防備な姿に保護欲をそそられる。 抱きしめて可愛がりたくて仕方がなくなる。

 そして、ジェンナはそんな自分の気持ちに素直な女性だった。

「ああんっ 可愛いっv」

「ジェ、ジェンナさん……っ」

 突然ぎゅうっと抱きしめられ、ニコルは目を白黒させた。

 柔らかい胸が顔に押し付けられ、その感触に狼狽する。

「ジェンナさんっ ジェンナさんっ」

「んん〜v いい抱き心地v」

 じたばたするニコルにも頓着せず、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「大丈夫、ニコルちゃんの悪いようにはしないから。もしデュークの馬鹿がおかしなことを

言っているのなら私が怒ってあげる。ニコルちゃんは何も心配しなくていいのよ」

「ジェンナさん……」

 デュークという言葉に、ニコルの動きがぴたりと止まる。

「デュークがニコルちゃんのことを迷惑に思うなんて何かの間違いだと思うけど………

まずは私の屋敷でゆっくりとお話しましょう? ね?」

 顔を上げると、ジェンナが優しく微笑んでいた。

 その笑みの温かさに、ニコルは素直にこくんと頷いた。




「じゃあ、そうと決まれば早く帰りましょうか。その子の手当ても早くしなきゃね」

 呼び寄せた馬車にニコルを促す。

「はい」

 ジェンナとともにニコルが馬車に乗り込もうとしたとき、しかし背後から思わぬ声が

二人を呼び止めた。





「よろしければ、私も一緒に乗せていただけないかな?」