夜の扉を開いて

 

33

 

 

 

    藤見が瀬名生の胸に頬を寄せる。

  その、 今までとはどこか違う彼の仕種に瀬名生は胸が熱くなるのを感じた。

  心の内の全てを吐き出した藤見は、 表情すら変わっていた。

  無防備で頼りなく、 いつもどこか張り詰めた雰囲気だったのが今は全く消えてしまっている。

 「藤見………」

  そう呼びかけると、 閉じていた目を開けて瀬名生を見上げる。

  その瞳から冷たい光が全く消え、 柔らかく澄んでいることに気付き、 瀬名生は息を飲んだ。

  心の壁を取り除いた後の藤見は、 驚くほどに柔らかで穏やかに優しい雰囲気をかもし出していた。

  これが本当の藤見の姿なのだ………

  自分がそれを奪ってしまっていたことを、 瀬名生は今更ながらに思い知った。

  包み込むように優しい藤見の雰囲気。

  それはどこか懐かしく、 心をほっとさせるものだった。

 「藤見……愛してる」

  そう腕の中の愛しい者に囁く。

  その言葉に藤見の瞳が揺れた。

  そっと小さな笑みが浮かぶ。

  しかし、 まだどこかで信じきれていないのだろう、 微妙に揺れる瞳がそれを物語っていた。

  それを拭い去りたかった。

  彼の全てで自分を信じて欲しかった。

  全てを自分のものにしたい………彼の全てが欲しい………

  瀬名生は身の内に飢えがこみ上げてくるのを感じた。

 「藤見………いいか?」

  欲望に掠れた声が囁く。

  一瞬、 びくりと震えた体は、 しかしその後おとなしく彼の腕の中でその緊張を解いた。











  久しぶりに感じる彼の肌の感触に、 瀬名生は急速に自分が高ぶっていくのを感じた。

  自分でも抑えきれないほどの愛情と欲望を彼に覚える。

  薄暗い寝室のベッドに横たわった藤見が自分を見上げている。

  こんなに無心に見つめられることもなかった。

  これまでは半ば無理矢理に彼の体を奪ってきたようなものだった。

  彼を脅すような形で。

  だから行為の最中に藤見の目が自分をまっすぐに見ることはなかった。

  その冷たく拒絶する瞳に、 余計に苛立ちを覚えたものだった。

  その藤見が本当に心から自分に体を任せてくれているのだ。

  そう知った瀬名生はたまらなくなった。

  白い裸身に重なるようにして、 彼の唇を自分のそれで覆っていく。

  舌先で唇をそっとノックすると、 おずおずと口を開く。

  するりと中に滑りこんできた舌に、 瀬名生の体に回された藤見の腕がぎゅっと彼の背中に

しがみつく。

  彼の口を味わいながら、 瀬名生は今まで藤見とまともに口付けをしたことがなかったことに

気付いた。

  藤見との行為はいつも彼の体を奪うことが目的だった。

  彼自身をきちんと愛撫してやって記憶すらあまりない。

  今更ながらに今までの自分の仕打ちのひどさを知る。

  その分まで今は彼を優しく愛してやりたい。

  そう思った瀬名生は、 藤見の唇を最後にペロリと舐め、 その口を下へずらせていった。

  首筋をぞろりと舐め上げ、 首の付け根を軽く噛む。

  途端に跳ねる体を宥めながら胸の方へと移動する。

  手の平で胸から腹を愛撫しながら口で胸全体にキスの雨を降らせる。

 「あ……あ……っ」

  薄い胸を手で掴むようにして揉まれ、 藤見の口からため息のような声が漏れる。

  その手が先端の突起を摘み上げたときには、 息を飲むような声が上がった。

 「……あ……うっ」

  そのまま親指と人差し指で捏ねるようにひねると、 藤見はいやいやというように首を振って見せた。

  今までになく反応がいい。

  瀬名生はそっと笑みを漏らすと、 片方の尖りに唇を寄せた。

  舌先で周囲を舐め、 固く尖った先端を口に含む。

  舌先で転がすように弄ぶと、 軽く歯を立てた。

 「………っ!」

  藤見の口から声にならない悲鳴が上がる。

  両手が瀬名生の頭を抱え込む。

  それに促がされるかのように瀬名生はさらに愛撫の手を進めていった。

 

 







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