人気投票第一位   記念ショート小説

              「楽園の瑕」  番外

 

 

 

   「ほお……綺麗にしてもらったな」

  部屋に入ってきたファビアスは、サラーラのいつもとは違う髪形に目を細めた。

  両サイドで何本も細かく編んだ房を弛みを持たせて後ろにまとめ、残った髪と合わせて小さな宝石を

縫いこんだ布で一まとめにして肩に垂らしている。

  サラーラの繊細な顔立ちを引き立たせる髪型だった。

 「あのね、 ノーザにしてもらったの」

  サラーラは嬉しそうにファビアスに抱きつくと、 自慢そうに自分の髪を指差した。

 「よく似合っている。 今度、その髪に似合う髪飾りを見繕うことにしよう……その布だけでは少々

寂しい気がする」

 「髪飾り? 僕にくださるの?」

 「そうだ。 お前に相応しい素晴らしいものを探させよう。 その瞳に合わせて赤い宝石がいい。台には

金を……いや、それよりもその白い髪には銀の装飾の方が映えるか」

 「ふ〜ん………」

  サラーラはあまり興味がなさそうに相槌を打った。

  それよりも今は心が惹かれることがある。

 「ねえ、 ファビアス様。 僕、ノーザに髪の編み方も教えてもらったんだよ。 髪の毛を三つに分けて

少しづつ編んでいくの。 ちゃんと綺麗に編めるようになったんだ」

 「それはすごいな。 サラーラは手先が器用なのだな」

 「うんっ! でね。 僕、 ファビアス様の髪の毛編んであげたいの」

 「…………は?」

 「ファビアス様、 いつも後ろに一つに括っているだけでしょう? だから僕が綺麗に編んであげる」

  サラーラはにこにこと笑いながら、ファビアスの無造作に束ねられた髪の毛を指差した。

  肩下まである黒髪はサラーラの目にはとても編みやすそうに見えたのだ。

 「い、 いや……サラーラ、それは……」

  サラーラの突然の言葉にファビアスは顔を引き攣らせた。

  この自分が女のように髪を編むなど……想像するだけで寒気がする。

 「サ、 サラーラ。 俺は今のままでいいのだ。 この髪型が一番気に入って………」

 「でも、 ただ括っているだけだよ? 僕、 綺麗に編めるよ?」

 「いや、 しかし………」

  サラーラの目は期待にキラキラと輝いている。

  習ったばかりのことを試したくて仕方がないのだろう。

  しかしファビアスは頷くわけにはいかなかった。 なんといっても自分は国王で、皆に恐れられるほどの

猛将として名を馳せた男なのだ。

  それなのに………

 「サラーラ、 それはまたの機会に………」

 「ダメなの?」

  ファビアスが拒否の言葉を口にした途端、 サラーラの顔が落胆に曇った。

  がっかりとした顔で、 その場に座りこむ。

 「サラーラ、 その……今日は、な。 ……そうだ、昨日のゲームの続きはどうだ? カードはどこに

やった?」

  別のことに目を向けさせようと、ファビアスが昨日サラーラが夢中になっていたカードゲームを

持ち出すが、サラーラはふいっと顔を背けた。

 「なら、 なにか美味い菓子でもどうだ? ノーザに持ってこさせよう」

  甘いものが好きなサラーラに、 お菓子で懐柔しようとするが、 サラーラはそれにもふるふると

首を振るだけだった。

 「………ファビアス様の髪の毛、 綺麗にしてあげようと思っていたのに……」

 「サラーラ……」

 「僕、 一生懸命練習したのに……」

  ヒックと泣き出しそうになる。

 「サ、サラーラ……っ わかったっ わかったから………」

  そんなサラーラの様子に、 とうとうファビアスは折れた。

 「それでは俺の髪を頼むとしよう。 綺麗にしてくれるのだろう?」

 「ホント? うん!」

  たちまちぱっと顔を輝かせたサラーラは、 傍らに座りこんだファビアスの体に嬉しそうに抱きついた。

 「ファビアス様、 綺麗に編んであげるね」

 「ああ……」

  嬉々とした表情で髪の毛を手にとるサラーラに、 ファビアスは内心深いため息をついた。

  …………己の髪がどうなってしまうのか、 想像したくもなかった。








  数刻後、 いつものようにいつまで経っても公務に戻ってこない国王を連れ戻しに、 リカルドが

サラーラの部屋へとやって来た。

  が、 ファビアスの姿を一目見た彼は、 扉のところに立ったまま固まってしまった。

 「へ……陛下?」

 「リカルド、 笑うなよ。 もし笑えば即刻謹慎を申し付けるぞ」

  憮然とした顔でファビアスがそう言い捨てる。

  その隣ではサラーラが自分の作品を満足そうに眺めていた。

 



END





注 : 本編はこんなほのぼのとした可愛いものではありません。
    作者、ちょっと壊れてしまいました。
 時期的にはサラーラ妊娠直前辺りの話になります。





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