二周年記念企画 「Treasurehunt2」 ショート



 

              yes






 これが最後、と男は言った。

「俺が嫌いですか?」

「それは……」

 問いかける声に、返事に詰まる。

 誰もいない会議室。 扉一つ隔てた向こうからは、人の声や電話の音が聞こえてくる。

「……今は勤務中だから………」

 そう言って何とかその場を逃げようとするが、男の手がそれを許さなかった。

「返事を聞くまではだめです。 今日こそははっきりと言ってもらいます。 ……俺が嫌いですか?

顔も見たくない?」

「嫌いだなんて………」

「じゃあ好きですか?」

「それは………」

 好きだと、言いたい。 なのに声が出なかった。

 真摯な顔で自分を見つめてくる男に、目を合わせられず俯いてしまう。

 はあっと頭の上でため息が聞こえた。

「ねえ、俺が強引なことは認めます。 こんな仕事中に話すことでもないことも。でも貴方、そうでも

しないとすぐに営業だって何だって外出してしまうでしょう。 部屋に電話しても出てくれないし」

 続く言葉に、ますます深く俯いてしまう。

 何と言えばいいのか、わからなかった。

 一度だけ、抱かれた。 

 それまでも何度か好きだとは言われた。 男に惹かれている自分にも気づいていた。

 でも男の言葉を本気にはしていなかった。 あの夜までは………。

 好きだと言われ、半ば強引に抱かれて………でもそれを喜んでいる自分に気づいたときに

怖くなった。

 本当に、うんと言ってしまっていいのか………。

 心の中に迷いばかりが渦巻く。

 好きだけれど、だけど………。

 何も言わない相手に、男はもう一度深いため息をついた。

「………わかりました。 もう何も言いません。 これで最後にします」

「っ!」

 ぐいっと顔を掴まれ、 唇を奪われる。

 男は貪るように激しいキスをすると、唐突に体を離した。

 息を切らし、顔を上げたときには、男はすでに背を向けていた。

「……っ」

 その姿に全身から血が引くのを感じた。 激しい恐怖が襲ってくる。

 嫌だ……っ

 そう思った瞬間、言葉が飛び出した。

「…待…ってくれ……っ!

 男の背に手を伸ばす。

 声に振り向いた男にしがみつくようにして言っていた。

「嫌だ嫌だ……嫌だ……っ 離れ、ないで……っ」

 必死に訴える。 男が自分から離れるなんて、耐えられない。 そう思った。

 男の背中を見た瞬間に、悟った。

 自分は彼をこんなに愛している。

 男の腕が体に回される。 きつく抱きしめられる。

「離れませんよ」

 抱きしめられ、耳元で囁く声がする。

 それでもしがみついた手を離すことができない。 手を離すのが怖かった。

「離れませんよ……貴方を愛していますから」

「………私が10歳も年上でも?」

 ずっとそれが心に引っかかっていた。 

「関係ありませんから」

 長い間抱えていた不安を、男は笑って一蹴した。 

 男の言葉に、心の中の不安が少し消えた気がした。

「………俺が好きですか?」

 何度も聞かれた言葉。

 いつも返事できなかった問い。

 その言葉に、小さくこくんと頷いく。

 自分を抱きしめる男の腕の力が強くなったのがわかった。












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