二周年記念企画 「Treasurehunt2」 ショート




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 簒奪者。

 吐き捨てるように投げつけられたその言葉を、男は笑って受け止めた。

 男が手にした剣……その刃に滴る血が父王のものであることを王子はすでに悟っていた。

「父を……国王を殺したのか。 己の主君を……っ 恥を知れっ!」

 憎しみを込めて男を見る。

 その視線さえ、男は笑って受け止めた。

 血に濡れたその手が王子に伸ばされる。

「私に触れるなっ その汚らわしい手で……罪に汚れた手でっ」

 激しく拒絶するが、その腕は簡単に王子の細い体を拘束した。

 男が抱きしめた王子の耳元で囁く。

「俺が罪人なら、王子、貴方もそうだ。 貴方が俺を唆した。 その顔で、その声で、その体で」

「っ!」

 王子の顔がみるみる強張る。

「……何を…戯言を………」

 その声は何かを恐れているかのように、かすかに震えていた。

「あの時貴方は言った。 自分を手に入れたいのならここまで昇ってこいと。……だから俺は

ここに来た。 貴方を手に入れるために」

「嘘だ……そのような……私は知らぬ……っ」

 ゆるゆると首を振るが、その目は明らかに動揺を示していた。

 男の口元が皮肉気に歪む。

「知らないと、そうおっしゃるならそれでもいい。 だが俺はここに来た。そして貴方を捕まえた。

貴方が俺をここまで連れてきたのだ」

「馬鹿な……」

 弱々しく呟く王子の声がする。

「馬鹿な……私は…私はそんな……」

 震える声は怖れに満ちていた。 己の罪を知った恐れに。

 ほんの、戯言のつもりだったのだ。 

 自分に熱い視線を送る男をちょっとからかっただけの……小さな戯言だった……。

 それがどうしてこのような………。

 血に濡れた床が、剣が、そして自分を捕まえて離さないこの力強い腕が、自分の罪の深さを

知らしめる。 取り返しのつかない、重い罪を。

「私は……私のせいでは……このような……なんということを……」

 罪の重さに耐え切れず、王子はただ首を振り続けた。

「認めぬのならそれでもいい。 貴方の分まで俺がこの罪を背負う。 だが王子、貴方はもう

俺のものだ……俺だけのものだ」

 王子の体に回された腕に力がこもる。

「私は……私は……」

 うつろな声で王子は呟き続けた。

 全ての世界が崩れていく。 自分の信じていた世界が。

 そして、残ったのは………。

「簒奪者め………」

 力ない声で男を罵る。

 男は薄く笑った。

「王子、知っているか? 貴方もまた簒奪者なんだ………俺の心を捕え、そして俺の心から

全てを奪ってしまった……忠誠心も愛国心も全て、全てだ」

 それでも俺は悔いてはいない。 後悔など、しない。

 男はそう言い放った。

 息が詰まるほど抱きしめられ、王子はその腕の熱さだけが現実なのだと知った。

 




 それは、一つの王国が滅んだ日だった。

 










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