二周年記念企画 「Treasurehunt2」 ショート
lucid
「ほら、もうすぐ生まれる……見ててごらん」 そうっと、囁くように教えられ、目の前の卵に目を向けた。 卵の表面に細かなひびが入っている。 それは見ているうちにどんどんと増えていった。 コン、コン………パキッ…… 小さな穴があく。 その中から小さな手が出てきた。 その手が何かを掴もうとするかのようにゆらゆらと 揺れている。 「出てきた……ああ、元気のいい子だね」 くすくすと笑う嬉しそうな声に、こくんと頷く。 胸がどきどきした。 早く……早く……。 早くその顔を見せて欲しい。 パキパキ、と音を立てながら卵が割れていく。 同時に、ピンク色の頭がひょこっと見えた。 「桃色の髪か……女の子かな?」 それを聞いてちょっとがっかりする。 男の子がよかったのに………可愛い弟が欲しかった。 しかし次の声に、またどきんと胸が弾んだ。 「……違った、どうやら男の子のようだね。 ああ、羽も桃色だ。 とてもいい色だよ」 半分以上砕けた卵の殻を全身にまとわりつかせて、小さな子供がぎこちない仕草で ひょこひょこと這い出てきた。 そして不思議そうに周りを見回す。その背には薄く透き通った 小さな桃色の羽根があった。 「おめでとう、、君の弟だよ」 その声に誘われるように、生まれたばかりの子供がこちらを向いた。 まあるい瞳が自分を見る。 その瞳の色は明るい空の色だった。 「君と同じ目の色だ」 こくんと頷く。 声が出なかった。 こんな、可愛い生き物が自分の弟だなんて。 と、自分をじっと見ていたその子供がおもむろに、ニコっとわらった。 それは嬉しそうに。 「っ!」 息が、止まる。 小さな手が自分に差し出された。 その瞬間、胸の中がぎゅっと何かに掴まれたように苦しくなった。 もう、目が離せない。 なおも自分に差し出される手。 その手も瞳もまっすぐ自分だけに向けられていた。 ふらふらと引き寄せられるように子供の元へと歩いていく。 背後からくすくすと笑う声がした。 「もうお兄ちゃんがわかるんだね」 そうっと小さな手を握る。 柔らかくて、壊れそうなほど小さい手。 もう片方の手が、自分の長い青色の髪を掴もうとしていた。 「……こんにちは」 やっと、そう小さく言う。 こんにちは、僕の弟。 話し掛けられ、子供が嬉しそうに笑った。 その笑顔に、また胸がどきどきする。 両手でそうっと抱き上げた。 軽い。 その背で桃色の小さな羽根が喜びを示すように、パタパタと小さく動いている。 こんにちは、僕の大事な大事な弟。 ぎゅうっと抱きしめる。 愛しさが胸いっぱいに溢れてきた。 この日、妖精国に二番目の王子が誕生した。 |