二周年記念企画 「Treasurehunt2」 ショート
jail bird
| 彼の手が帯を解いていく。 するりと、肩から着物が落ちていく感触に、思わず体を震わせた。 「……怖いか?」 問われて、ゆっくりと目を開ける。 目の前に心配そうに自分を見下ろす男の姿があった。 「……いいえ」 そうかすかに笑う。 いいえ、怖くなど……ない。 枕元の明り取りの火が風に揺れる。 明かりに照らされた男の姿も火の影に揺らぐ。 まるで幻のようだ。 ………そう、これは幻なのだ。 一夜限りの、自分に許されたたった一夜の。 「お願いだから、僕を抱いてください……」 そう、自ら縋った。 格子越しに男の姿を認めた瞬間。 今日が初めての顔見せの日だった。 借金の肩にこの遊郭に連れてこられて、でもそれでも仕方がないと諦めていた。 これ以外方法はなかった。 自分が逃げれば、親や弟達が困ることになる。 だから仕方がなかったのだ。 しかし、一つだけ、どうしても忘れられないものがあった。 ずっと、思い続けたあの人に、もう一度だけ会いたかった。 男の姿をこの遊郭で見た時には、本当に幻を見ているのだと思った。 何故男がここにいるのかということすら、考えられなかった。 ただ、男に会えたことだけが、それだけが。 気がつけば叫んでいた。 「僕を、抱いてください……っ」 初めては貴方がいい……お願いだから……っ。 その声に男が振り向いた。 その顔に浮かんだのは驚きだったか。 彼は声に応えてくれた。 そして今、ここでこうやって自分を抱いている。 「辛いか……?」 尋ねる声に首を振る。 辛くなどなかった。 痛みなど何でもない。 そんなもの、この喜びに比べれば。 男の腕を感じることが出来たこの喜びに比べれば。 「嬉しい……嬉しい……」 呟きながら、男の背に腕を回した。 頬を涙が流れた。 その涙を、男の指がそっと拭った。 「……え………?」 信じられないという目で男を見た。 「だから、ここを出るんだ」 自分を追ってきた、と彼は言った。 もう店との身請けの話は済んでいると。 「俺とでは嫌か? 断りもなく話を進めて悪かったか?」 自信なさげにそう言う男に、咄嗟に首を振っていた。 「いいえ……いいえ……っ」 頬を涙が流れる。 喜びの涙が。 男の手が、その涙を拭った。 昨夜と同じように。 昨夜と違うのは、その後に落とされた甘い口付けだった。 |