二周年記念企画 「Treasurehunt2」 ショート



 

               feeling






 ふと見かけた光景に、とっさに自転車を止めていた。

 一人の少年が公園で犬と戯れていた。

 それだけならなんと言うこともない、どこにでもある日常の光景だ。

 ただ、その少年が自分の知っている人間だったということだ。

「あいつ………?」

 同じクラスの、でも挨拶程度にしか付き合いのない相手だった。

 それがどうして自分の目を惹いたか。

 目の前の彼は、自分を見ている人間がいることにも気づかず、大きな犬と明るい笑い声を

あげながら戯れていた。

 その生き生きとした明るい笑顔に目を奪われる。

 こんな、少年は知らない。

 自分が知っている彼は、教室の中でいつも控えめで、穏やかな笑みを浮かべながら

友達の話を聞いている優等生だった。

「あいつ………」

 見ている前で、少年が犬に飛びつかれ地面に押し倒されて顔中を嘗め回されている。

「……こら……やめろって、くす…ったいってば……」

 笑い声とともに犬をたしなめる声が聞こえる。

 しかし、少年に圧し掛かるようにしてじゃれ付く犬は、よほど嬉しいのか、尻尾をバサバサと

振りながら少年の顔を舐めるのをやめようとしない。

「…かった、わかったから……こら、どけって……っ」

 少年が足をバタバタさせながら、それでも楽しそうに犬の首を抱きしめた。

 その様子をただぼうっと眺める。

 目が離せなかった。 彼の笑顔に、目が釘付けになる。

 ガチャンッ

 傾いた自転車が公園の柵にあたり、その音ではっと我に返る。

「……いけねっ バイト……っ」

 腕時計の示す時間に、慌ててペダルに足をかけた。

 もう一度、ちらと少年達の方を見る。

 彼は何も気づかず、犬と遊び続けている。

 ………明日から面白くなりそうだな。

 ただのクラスメートだった少年の知らない一面に、興味がわく。

 あの笑顔がもう一度見たいと思った。 今度は自分に向いた笑顔を。

 ひとまず、明日一番に声をかけてみようか。

 今から明日が楽しみだった。











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