第一夜
アーウィン x エリヤ
夜の風にのってかすかに聞こえてくる堅琴の音に、アーウィンはふと足を止めた。 その口元に笑みが浮かぶ。 その音の主が誰なのかわかったのだ。 「………久しぶりだな」 ここしばらく何かと忙しなくて、ゆっくり二人で過ごす時間がなかった。 アーウィンも差し迫った宮廷行事の準備に追われ、やっと今屋敷に戻ってきた ばかりだった。 部屋の入ると、やはりエリヤが窓辺に腰掛けて堅琴を奏でていた。 目を閉じて楽器に意識を集中しているのか、アーウィンが部屋の中に入って きたことにも気付かない様子だった。 部屋の中に満ちる優しい音に耳を傾けながら、静かに近寄る。 そして背後からそっと頬にキスをすると、エリヤがはっと驚いた顔をして 楽器の手を止めた。 「アーウィン! びっくりするじゃないか。いつ戻って……?」 「たった今だ……もうやめるのか?」 膝の上に置いてしまった堅琴を指差して、続きを促がす。 エリヤはしょうがないなという顔をして、また楽器を持ち上げた。 途切れていた音色がまた流れ出す。 アーウィンは黙って琴の音を聴きながら長椅子のエリヤの隣に腰掛けた。 「……っ アーウィン、そのような格好をされたら邪魔で弾けないじゃないか」 そのまま膝の上に頭を乗せかけてきたアーウィンにエリヤが咎める声を出す。 「大丈夫だろう? ほら、ちゃんと弾けている」 途切れることなく続く琴の音にアーウィンが悪戯っぽく笑う。 そして今度はエリヤの腰に腕を回して腹に顔を埋めてきた。 「アーウィン! こら、弾けないだろう? 」 「こうやっていると気持ちいいんだ」 そう答えるアーウィンの声は本当に気持ち良さそうだった。 「もう………仕方がないな」 エリヤはとうとう楽器を奏でることを諦め、腰に顔を埋めるアーウィンの頭に 手を置いた。 短い髪の毛を手で梳くように撫でる。 アーウィンの口から満足そうなため息が漏れた。 「………アーウィン?」 しばらく経ってエリヤが声をかけたが、 返ってきたのは安らかな寝息だった。 「……本当に仕方がないな」 そう言いながらも、 エリヤの顔には優しい微笑みが浮かんでいた。
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